色はいらないけど軸がほしい

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命に執着する者

中村文則の『掏摸』と『王国』を読んだ。今は『遮光』を読んでいる。私がこの作家さんを知ったきっかけは某SNSだ。少ないながら自分が読んだ本の作家さんの中で、読みやすくておもしろいと思った作家さんを好む人の好む他の作家さんを抽出した。その中の一人が中村文則である。そして、ジャケ裏のあらすじを読み、興味をもった本が『掏摸』だった。読み終えた時、一言で言うと「世の中は残酷だ」と思った。でも、不快感だけで終わらなかったのが事実であり、なぜか僅かばかり爽快感もあった。この物語に出てくる超重要人物、木崎。世間的な目で見ると極悪人なのかもしれない。彼の過去が語られる場面もなく、弱さが垣間見える場面もないので情が湧くことが無いのは当たり前で、愛されるキャラクターではない。でも、共感とまでいかないが、彼の持っている価値観の一部にじーーんときた。『王国』でも木崎は登場するのだが、彼の人間性が濃く表れるにつれ、更に惹き込まれている自分がいた。

 

「その刺されて苦しむ男を、残忍に見るだけではつまらない。笑いながら見るのでもつまらない。しっかり同情するんだ。そいつの恋人やそいつを育てた親になどまで想像力を働かせ、同情の涙を流しながら、しかしもっと深く、もっと深くナイフを刺す。その時、命を破壊する残忍で圧倒的な喜びと同時に、その命に同情する温かで善良な感情が染みるように広がる。その相反する二つの感情は人間の限界超える。善と悪が互いに刺激し合い、その感情は人間の許容範囲を超えどこまでも上昇していく。渦のように。肝心なのは、全てを余すことなく味わい尽くすことだ。なかなかいいぞ、その瞬間は。」

 

捉え方次第で人生ははっぴいである。